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心理学ワールド 79号 この人をたずねて 友永雅己 氏 松井 大(慶應義塾大学博士課程) | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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34 Profile─ともなが まさき 1964年,大阪府生まれ。大阪大学大 学院人間科学研究科博士課程単位 修得退学。博士(理学)。日本モン キーセンター学術部長を兼任。著書 は『チンパンジーの認知と行動の発 達』(共編,京都大学学術出版会), 『動物たちは何を考えている?』(分 担執筆,技術評論社)など。左写真 はポニーのニモと一緒に撮影。 この人をたずねて ■友永先生へのインタビュー ─ご自身の研究領域を教えてい ただけますか?  チンパンジーを対象にした比較 認知科学です。比較認知科学とい うのは,ある特定の認知機能を現 生種間で比較して,共通の特性や 独自な特性の進化を調べる領域で す。例えばヒトとチンパンジー の認知機能を比較することで,そ の機能の進化を再構成できると 思っています。比較するトピック はさまざまで,最近は数と顔の認 知や,チンパンジーの認知発達に 関心があります。チンパンジーの 他にも,イルカやウマ,ヤギ,カメ も研究対象にしていますね。例え ばイルカはぼくらと同じ哺乳類で も,異なる動物種として分岐した のはずっと昔で,彼らは水中の環 境に適応しています。だからぼく らみたいな地を這う哺乳類から すると,イルカを調べるというこ とは環境適応の威力を調べるって 意味ですごく面白い。かと思い きや,バンドウイルカもチンパン ジーみたいに個体同士で連合を組 むことがあったりして,「それを 支えるチンパンジーやヒトと共通 の知性とはなんだろう?」と考え るとそれはそれで面白いですね。 ─全ての研究に通底している テーマはありますか?  基本的には視覚認知を中心に据 えた研究をしています。動物に とって世界がどういうふうに見 えて,見えたものがどんな意味を 持っているのかということを知り たいです。それを前提にして,い ろんなものを理解したいですね。 例えばチンパンジーみたいな大型 類人猿が相手と協力したり競合し たりする社会性の問題は,ぼくも 含めみんなずっと考え続けている んですけど,そういう社会的認知 を考える上でも,ぼくは「それを 可能にする視覚情報処理としての 顔認知や他者の行為の認知はどう なっているんだろう?」という観 点から出発しています。 ─さまざまな動物を対象に研究 をしていますが,そのきっかけと か,モチベーションとかはありま すか?  研究対象の「わけのわからな さ」ですね。チンパンジーと日々 関わり合い,その瞬間瞬間にチン パンジーから返ってくるダイナ ミックな行動の変化を見ている と,まったくわけのわからないこ とがたくさん起きます。ぼくはそ れが面白くて研究しているという 面があります。論文では「これこ れという問題あり,それを調べる にはヒトと近縁のチンパンジーを 使って……」というふうに書くけ ど,実際は逆。チンパンジーはこ うだよねっていう面白さを見つけ 出して,それが視覚認知という専 門分野のもとでヒトとの比較につ ながっていくんです。そうやっ てある特定の種に興味を持って ずっと見ることで,生き物の見方 が変わってきて,今度は他の動物 も「どうして彼らはこうなんだろ う?」と目に入ってくるように なってきました。結果,こうやっ て研究が広がっていったのだと思 います。 ─確かに,チンパンジー研究を 20年間続けてきた上で他の動物 の研究をすると,チンパンジーを ある意味「ものさし」にして見え てくるものがたくさんありそうで すね。  もちろんです。ただ,それは逆 に弱いところでもあって,考えつ く研究のトピックが制約を受けて いるかもしれないから,そこには 注意しなくてはいけない。例えば ぼくからしたら,ヒトとはまった く違う身体構造を持つカメが動い ているってこと自体が面白いし, 正直言ってぼくらとはまったく異 なった知性のあり方をしているよ うに見えます。だけど,いざ研究 となるとこれまでの自分の方法論 から出発せざるをえない。すごく 美味しい料理がきているのにまず パセリから食べているような遠回 り感はありますね。でもそれは第 一歩として割り切って,これから 京都大学霊長類研究所認知科学研究部門 教授

友永雅己

インタビュー

松井 大

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35 この人をたずねて どうやって広げていくのかは,自 分の周りにいる研究者との幅広い 交流の中から見つけていきたいと 考えています。 ─今後調べていきたいもの,注 目しているものはありますか?  動物の環境内での位置移動で, 彼らが移動中にどんな情報を取得 しているのかというのが気になり ます。当たり前だけど,チンパン ジーには高所恐怖症がいないんで すよ。落ちたら死ぬのはヒトと 同じなのに。加えて,同じ樹上生 活でもチンパンジー,オランウー タン,あるいはテナガザルでは移 動の仕方が全然違う。さらに言え ば,同じチンパンジーでも子ども の頃と大人になってからじゃ身体 の動かし方が変わってくるので, 発達的な変化もあります。おそら くは身体の大きさや構造が関わっ ていて,それが知覚とも密接に影 響し合っているんでしょうね。つ まり,環境から必要な情報をダイ レクトに知覚して,かつ,自分の 身体の情報と合わせて総合的な判 断を下しているはず。こういうの はバイオメカニクスの人たちと一 緒にやるとなんか面白いものが出 てくるかもしれないですね。心理 学から見て周辺にある研究領域で 使われている手法をうまく使う と,見えてくるものも広がってく るんじゃないかと思います。 ─最後に若手研究者へのメッ セージをいただけますか?  頑張れ! まずは自分が対象に している動物への愛みたいなもの が大事なんだと思います。という のも,動物の研究をしていると, その種の背後にあるさまざまな 状況に目を向けざるをえなくなり ます。例えばカラスの研究だった ら,彼らの高次認知機能だけでは なく,害鳥扱いされているカラス と人間との関わり合いとかですか ね。つまり,実験室にいる動物の 姿だけではなく,その背後にある 丸ごと全てを引き受けるような覚 悟が必要になる。それを楽しいと 思えるメンタリティが必要です。 とはいえ,まずは自分の目の前に いる動物の面白さをいろんな視点 で見て,研究に取り込んでいって ほしいですね。一見のほほんと暮 らしてる動物も,なんでこうなん だろう,これはどうなってるんだ ろうって視点で見ることで見方が 変わってくるはず。それが自然と 適応進化,ひいては心の進化の問 題につながっていくのが比較認知 科学の面白さなんだと思います。 ■インタビュアーの自己紹介  友永先生は,論文を読んだこと は何度もありましたが,実際に面 と向かって話すのは初めてでし た。実際にお話した友永先生は, エネルギッシュで好奇心溢れる方 で,インタビュー中何度も「それ は面白いな……」「こういうこと ができたら面白いな……」と呟い ておられたのが印象的でした。そ んな友永先生の姿を少しでもお伝 えできていれば幸いです。  私自身はカラスを対象に研究を しています。カラスの中には棒状 の道具を製作して,朽木に潜む昆 虫を釣り上げる行動を見せる種が います。そのような「知的」行動 がいかにして可能になっているの かを,身体の「運動」という観点 から明らかにすることを目指し ています。具体的には,カラスの クチバシの操作に対しハイスピー ドカメラとトラッキングソフトを 用いて運動学的な解析を行い,彼 らの繊細な運動制御能力を調べて います。最近は行動中の脳の活動 を測る神経生理学的な手法も取り 入れて,行動の内部メカニズムに も踏み込もうとしています。加え て,動物の行動と身体の構造がど のように関わっているのかにも注 目しており,形態幾何学的な測定 を用いてカラスのクチバシ形態を 種間で比較する研究もしていま す。このように方法論は拡散気味 ですが,動物の行動を,それを生 み出す内部メカニズムと,環境と 生体の接点である身体の形と共に 理解し,動物の生きる世界を描出 したいというのが研究のモチベー ションになっています。  動物の研究を始めたのは大学院 に入ってからなのですが,指導教 員から「自分が興味を惹かれるも のを撮ってこい」と,ビデオカメ ラを一つ渡されたのが始まりでし た。それからは毎日研究室内外問 わずカラスの動きをつぶさに眺め る日々でした。最初はカラスがエ サを食べる場面を素朴に観察する ところから出発したのですが,次 第にエサを食べるという単純な行 動一つとっても,そこに動物の生 きるデザインが現れているように 感じ始めました。そうしていくう ちに「カラスから見た世界」を考 えることに引き込まれ,徐々に研 究らしくなっていったように思い ます。なので,今回の友永先生と のお話は,自分の原点に立ち返る 良い機会となりました。 Profile─まつい ひろし 慶應義塾大学社会学研究科博士課程。日 本学術振興会特別研究員。専門は比較認 知科学,神経行動学。論文は「Flexibility of pecking motor control to artificially extended bill in crows but not in pigeons」 (共著,Royal Society Open Science)など。

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